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暮らしの記憶プロジェクト(写真家 安田佐智種さん)

2014年、アーティスト安田佐智種さんが進めてきたのは、津波で流出した住宅の基礎の記録。

今年度は、 これまでに制作した作品に大切な厚みを加えます。

南相馬市、浪江町で撮影した住宅に暮らしておられた方々にお会いしお話しをうかがい、そこにお住まいだった一人一人の暮らしの記憶をとどめる作業を進めます。

11月はじめ。訪ねたのは浪江町請戸。海辺の町だった請戸、ここにあった住宅はすべて流されました。

そして、そこにあった人々の暮らしはすべて大きく変わってしまいました。

住まいを失った方々は請戸を離れ、散り散りに避難生活を送っています。

元の住宅にお住まいだった方にお目にかかるのは簡単ではありません。

初めてお話しをうかがえることになったKさんとの出会いも偶然でした。そして幸せな偶然でした。

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小春日和の請戸のKさんのお宅をお訪ねしました。かつて庭を眺める縁側だった場所に腰を下ろしたKさんは、安田さんに向かって、その家での暮らしをポツリポツリと語ってくださいました。

帰って来る息子夫婦のために広くした風呂のこと、海を眺めるためにしつらえた窓のこと、おばあさんの部屋の横の坪庭のこと。

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秋の日差しはすぐ暮れる。夕陽に照らされるKさんは、遠くを眺めながらつぶやきました。

「こんな景色は、ここでは見られなかったなあ。」

安田さんは、現在のお住まいのこともKさんに尋ねます。

少し小さくなったお宅ですが、庭を丹精込めて手入れしておられるとのこと。雨水や風呂水を無駄にしない水遣りの仕組みをご自分で作ったことを楽しそうに話してくださいました。

奥さんのお気に入りの草花に水をやるのが、日課だそうです。

哀しみを抱えながらも、日々の暮らしを取り戻そうとするKさんの強さが胸に残った請戸の一日でした。

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(川延安直)

2015.12.25